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yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

星に願いを 3



 草原は柔らかな日差しが降って、今まで眠っていた草や花が目を覚ましたように一面に咲き誇っていました。遠くの山はまだ雪を かぶっていました。
 ラルは革の大きなつばの帽子をかぶり、羊の毛で編んだシャツを着ていました。羊を連れてそこへやって来ました。羊は喜んで走り回り草を食べてはじめました。
 ラルは岩を背にして座りしばらく羊たちを見詰めていました。そして、ポケットからおじいさんにもらった手のひらくらいの本を取り出しました。ラルの目は輝いて夢中で読み始めました。本にはこの地方の色々な仕来りやお話が載っていたのでした。
 春の暖かな日差しはラルを眠りへと誘いました。ラルはすっかりその誘いに乗ってしまいました。
「ラル、私はサラシャというの。今は空の上のとても遠い遠い楽園にいるの。そこは一年中春のような季節で花が一杯咲いているわ。戦争もないし平和なの。みんな笑顔で生活しているわ。お父様もお母様も居るわ。何時もラルのことを話すの。ラルと初めて会った村の事、馬車で見たラルの顔、目があって目をそらせたラルの可愛いしぐさなど、真剣に話すの。
 私がラルと会えるのはラルが眠っている間だけなの。神様が何か欲しいものがあるか、一つだけ叶えてやろうというのでラルに会うことだというと夢の中だけという約束でこうして会うことが出来るように許してくださったのです。
 ラルが爽やかな息をすると私もする。あくびをすると私もする。眠ると私も眠る。起きて羊を追うと一緒に私も追うの。あの頃の寂しい私ではないのよ。溌剌としている私を見せてあげたいわ。
 そう言えばラルのお父さんとお母さんにも会ったわ。ラルの小さなころのこと、良く風邪をひいていた病弱な子だったことも。お父さんお母さんもラルの事を見守っているわ。ラルがどんな子になるだろうと心配をしているの。神様に尋ねてもそれは教えてくれないの、そう言う決まりなの。私もラルがどんな大人になるのか楽しみなの。
 ラルの夢の中でこうして話すことはとても疲れるの。いいえ、病気ではないの、このことも神様との約束なの・・・」
 ラルは目が覚めました。たわいない夢だと笑ってはおられない気がしました。そのことをおじいさんに言いました。
「忘れるのじゃ。忘れなくてはならんのじゃ。夢と現実はそれはそれは遠い遠いへだりのあるものじゃ。わしの様に歳を取るとその隔たりはもっと遠く感じられる。人が生きると言うことは一瞬のことなのじゃがその一瞬はとても長いことなのかもしれん。人に言ってはならんぞ、そのことを・・・。気が触れたと相手にしてくれなくなるぞ」
 おじいさんは今までに見せたことのない怖い顔で言いました。
 ラルは夢だとあきられることは出来ませんでした。サラシャの事を思いました。幸せなら何処にいてもいい、その幸せを祈ろうと思いました。
「ラル、ラルは本当に素直な子なのですね。隠し事が出来ない正直な子なのですね。私が夢で会えると言ったことは誰にも話してはいけないと言わなかったのが悪かったのね。
 もう、夢の中で会うことも出来なくなるわ。世界が違うの、ラルの生きる世界を迷わす事は出来ないの。これは約束なの、ゆるしてくださった神様との・・・。もう夢でも会えなくなってしまったの、元気でいつまでもいつまでも生きてね、私のぶんまで。さようなら・・・。」
 ラルは目を覚ましました。そして、外に飛び出しました。満点の夜空を見上げました。少し大きく輝いた流れ星が山の向こうに消えるのをラルは見ました。
ラルの頬に一筋の涙が流れていました。 
 


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